
あわや離婚の危機!?を乗り越え、
家づくりを通じて本当の家族に
もう10年以上前になるが、今でも忘れられないお客様がいる。
それは、僕がまだ新人だった頃に担当したお客様だ。
そのお客様は、材木店を営んでいる高齢の男性だった。
職業柄、家づくりや建築に詳しく、こだわりや想いも強い。
どうやら社内では「ちょっとやりづらいな」と敬遠する営業マンが多かったようで、
何も知らない新人の僕に担当がまわってきたのだ。
お客様のご相談内容は、長年営んできた材木店を廃業するため、
材木倉庫があった場所に二世帯住宅をつくりたいというもの。
当時、お客様の息子さんはまだ独身だったが、
「息子の将来のために新しい住まいを用意したい」とのことだった。
今、振り返れば当時の僕には相当荷が重い仕事だったと思う。
でも、年季の入った材木倉庫を愛おしそうに見つめるお客様の姿に胸が締め付けられ、
不器用ながらもただその想いに何とか応えたいと、一生懸命に提案した。
「キミにお願いするわ」そう言ってお客様は手付金を現金で持って来てくださった。
ガサガサに荒れた手が握りしめた600万円。
その手を見たとき、僕は思わず涙がこぼれた。
何十年も材木店で働き続けてきた歴史、廃業を決断するに至った複雑な想いなど、
その手には、お客様の歩んできた人生の全てが詰まっていたからだ。
手付金を受け取り、材木店は数十年の歴史に幕を下ろした。
現在、お客様は結婚した息子さん夫婦と二世代住宅で一緒に暮らしながら、
セカンドライフを楽しんでいるという。
もうずいぶん昔の話だが、
あの必死に働き続けてきた証である荒れた手の感触と、
握りしめた600万円の重みは今でも忘れられない。