
数十年の歴史に幕を下ろした材木店。
握りしめた600万円に込められた想い
多くの夫婦にとって、家づくりは人生最大の買い物。
大きなお金が動くため、思いも寄らない出来事が起こることもある。
ある日、若い夫婦がモデルルームを訪れた。
結婚してしばらくアパートで暮らしていたが、念願のマイホームを建てたいとのこと。
二人は最近出会ったどの夫婦よりも仲睦まじく、
とんとん拍子で話が進み、マイホームでの新たな暮らしに胸を躍らせていた。
しかし、順調に進んでいた家づくりだったが、住宅ローン審査で思わぬ出来事が。
旦那さんに500万円の借金があり、住宅ローンを組めないことが発覚したのだ。
これはまずい、これは離婚問題にも発展しかねないと、
まずは審査結果を旦那さんにお伝えし、どうされるかをお伺いした。
長い時間考え込みながらも、旦那さんから返ってきたのは、
「妻に正直に話してみます」という言葉だった。
そして、旦那さんの口からその事実が奥さんに伝えられた。
予想だにしていなかった出来事に、言葉を失い、黙り込む奥さん。
住宅ローンが組めないというのはもちろんだが、
夫婦間に隠し事があったという事実が何よりショックだったのだろう。
やむを得ない事情での借金だったようだが、
その場に立ち会った私も、掛ける言葉が見つからなかった。
あの夫婦はどうなってしまうのだろう。
離婚の危機を迎えてもおかしくない――そんなことまで考えていたが、
しばらくして、二人から連絡をいただいた。
奥さんの貯金で借金を返済し、住宅ローンの審査を通したいとのこと。
その貯金は奥さんが独身時代にこつこつ貯めていたお金だった。
この結論に至るまで、二人の間でどんな話し合いがなされたのか、私は知らない。
でも、きっと二人はこのとき本当の意味で夫婦になることを、
家族として共に人生を歩んでいくことを決断したのだろう。
それから数年後、二人だけだった家族は、賑やかな五人家族に。
初めて出会ったときよりも、さらに幸せそうな笑顔で溢れていた。